くるみがくるみのまま、最後までくるみだった。
推しはくるみ。怖い話とお化けが大好きで、誠を「お兄ちゃん」と呼んで懐く高校3年生。この子の言動が、合宿の初日から最後の一場面まで一本の線でつながっていて、わたしはずっと解釈一致を叫んでいた。ほかのヒロインも、無口な遙、班長の優夏、気の強い沙紀、年上のいづみと、それぞれ自分の理屈で動いている。姉妹の関係にもう一歩踏み込んでほしかった場面があるので、そこを引いて7.5。
スコア詳細
「お兄ちゃん」の一言で、この島に住むと決めた
くるみ。もう最初に言っておく。この作品、わたしにとってはくるみのゲームだった。
KIDの『Never7 -the end of infinity-』。infinityシリーズの第1作で、わたしが遊んだのは2001年のWindows版。優夏の視点で物語をなぞり直す追加シナリオ「優夏キュア」も入っている版だ。同じシリーズのほかの作品があるのは知っているけど、わたしが遊んだのはこの一本だけ。だからこのレビューも、この島のヒロインたちの話だけをする。
主人公の石原誠は、授業にほとんど出ていない大学3年生。心理学科のゼミ合宿で、7泊8日の予定で絶海の孤島に連れて来られる。ロッジには班長の優夏、ほとんど口をきかない遙、財閥の御曹司の億彦。坂を下りたカフェ「ルナビーチ」には、アルバイトのいづみと、その妹のくるみ。島の別荘には優夏の中学の同級生の沙紀。そして4月1日の朝から、誠はこれから起こることを言い当ててしまう。
で、くるみが初めて喋った瞬間に、わたしはもうダメだった。中学生に間違われてむくれる「くるみ、これでも17歳なんだからねっ!」。そこから先は、この子の一挙一動を追いかけるゲームになった。以下は結末まで全部込みで。
合宿の面々、全員に自分の理屈がある
この作品、脇まで含めて、誰ひとり記号になっていないんですよ。
守野くるみいづみの妹で高校3年生。怖い話とお化け屋敷が大好きで、折り紙を折っては「ジャ~ン♪ くるくるくるみマジック♪」。徹夜でバスケットを直して目を真っ赤にしてくる。朝は「お兄ちゃん! お兄ちゃんってばぁ! もうっ、早く起きないと遅刻しちゃうよ!?」と誠を起こしに来る。合宿中に遅刻も何もないのに。かわいい。
樋口遙班員で、誠たちより1つ年下だけど飛び級して同学年。ほとんど喋らない。「私、お腹、空いてない」と言った直後に平然とピザを食べる。バーベキューでは「フナムシ」「食べるの」「……焼いてみよ?」。この子、無口なんじゃなくて、言葉と行動の順番が人と違うだけなんですよね。
川島優夏班長。明るくて世話焼きで、料理は壊滅的。バーベキューで回文を飛ばし、酔うとトロを食べたがる。誠を最初から呼び捨てにする人なつこさの裏に、ときどき寂しそうな顔がのぞく。
朝倉沙紀優夏の中学の同級生で、別荘に来ているお嬢様。気が強くて、遙とはことあるごとにぶつかる。動物にはやさしい。人間には刺がある。このギャップがいい。
守野いづみルナビーチで働く年上の女性で、くるみのお姉ちゃん。穏やかで、星の話や島の言い伝えに詳しい。沙紀と遙が喧嘩を始めると「いい加減にしなさいっ!!!」と一喝する、ちゃんと怒れる大人。
主人公の誠は軽口とツッコミの人。くるみのいたずらに「って、んなわけあるかぁ!!」と返す反射神経がいい。億彦は気障な御曹司で、誠を「石原ぁ」と見下すけど、ピザ代を踏み倒すために偽名を名乗るような小物っぽさで憎めない。
くるみの「20歳」は、解釈違いじゃなかった
ヒロインごとに、ルートをまたいで同じ子でいられたかを見ていく。結論から言うと、ほぼ全員、解釈一致。
くるみ一回だけ、本気で、え?ってなった場面がある。いづみのルートの6日の未明、着替え中のくるみが「だってくるみ……20歳だもん」と言って、誠を「誠くん」と呼ぶ。いつもの「お兄ちゃん」じゃない。キャラ崩壊か!?と身構えた。でも4月7日の朝に、くるみが5日の午後にいづみから自分の生まれの話を聞いていたことが分かる。21年前に生まれて、誘拐されて、3年の空白があって。それを知ったくるみが、自分の年を数え直したんだと思う。……つまりこれ、ブレじゃなくて、くるみが自分の過去を受け止めようとしてる顔なんですよ。高校3年生の17歳として生きてきた子が、知ったばかりの数字を口にしてみる。解釈一致どころか、解釈が一段深くなった。
そしてくるみのルートの6日。いづみが誠を問いつめる会話を、くるみが立ち聞きしてしまう。「ほんと? ほんとなの? くるみは、お姉ちゃんの妹じゃ……ないの?」「嘘つき……みんな……みんな……くるみのことを騙して……」「嘘つきぃー!!」。誠がタイムスリップの話をしても信じない。「パパも……ママも……お姉ちゃんも……お兄ちゃんも……嫌い……だいっきらい! みんな、だいっきらい!!」。ここ、くるみが全員を嫌いと言うときに、ちゃんと「お兄ちゃん」も入ってるのが苦しい。一番懐いてた相手も、例外にしない。
で、神社で夜明けまで待った誠が、1周目にくるみから教わった紙飛行機「くるみ17号」を折ってみせる。くるみしか知らない「企業秘密」の折り方。それを見たくるみの「くるみしか……知らないのに……」。説得じゃなくて、くるみ自身の遊びが誠の話を証明する。折り紙と紙飛行機をずっと楽しそうに折ってた子だから、この決着しかありえない。ライターわかってる。公式が最高。
最後、潰れた神社に2人でお参りして、明日が始業式だと思い出したくるみが「もう1度……タイムスリップするのぉ!」と階段を駆け上がる。あれだけ泣いて怒った子が、最後はオカルト好きのくるみに戻ってる。くるみがくるみのまま終わる。尊死。
遙1周目の4日の夜、眠りかけた誠の耳元で遙がささやく。「私を……私をずっと助けてくれる? 守ってくれる?」。守られたい子なんだ、と思うじゃないですか。ところが遙のルートでは、子犬をかばおうとした誠を遙が突き飛ばして、自分が車にはねられる。いづみのルートでも、雨の道でいづみを抱いて車に背を向けてかばい、いづみを「お姉ちゃん」と呼ぶ。守ってほしいと言った子が、守る側に回る。バーベキューで沙紀にジュースをかけ返した理由が「悪いと思って……ないみたいだったから」「同じことしてあげないと……分からないんじゃないかと、思ったから」だったのも思い出してほしい。この子は、自分がされたことを、そのまま相手に返す子なんですよ。守ってもらった分だけ、守り返す。完全に一貫してる。くるみの血で助かったあとの「眠り姫は……キスで目覚めたんだよね?」は、この子が初めて自分から甘えた台詞だと思う。
優夏優夏キュアがすごい。本編の優夏ルートで、6日に神社へ向かう誠を止めて優夏が叫ぶ「最初から、すべてが始まったあの瞬間から、誠のことが大好きだったんだよぉ!!」。優夏キュアでは、これと同じ台詞を優夏の側から聞き直すことになる。初恋の男の子を火事で亡くして、誠がその子の生き写しで、それでも「だけど、違うんだって気づいたの……。その想いとは、違うんだって……」と言える優夏。本編で外から見ていた告白を、内側から答え合わせできる。視点が変わっても一字も変わらない台詞って、キャラの芯がぶれてない証拠じゃないですか!?
沙紀「私は人なんか信じない。信じられない。信じたくない……」と岬の突端でフェンスを越える沙紀に、誠が「人を『信じる』のに理由がいるか!」。文化祭で絵を壊されて濡れ衣を着せられ、野良猫と桜の木にしか話せなかった子だから、理由を並べた説得は届かない。理由がいらないと言われて、初めて届く。抱えて走っていたのが衰弱した子犬だった、というオチまで含めて、動物にだけやさしい沙紀の筋が通ってる。
三姉妹の星の砂と、届ききらなかった和解
関係性で一番刺さったのは、いづみ、くるみ、遙の三人だった。そして、一番物足りなかったのも、この三人だった。
遙はくるみのクローンで、くるみが誘拐されていた間に、父の茂蔵が作った子。遙の額の傷は、小さいころのいづみが「新しい妹」を突き飛ばしてつけたもの。この設定を知ってから合宿の前半を思い出すと、くるみと遙がやたら気が合って一緒に悪ノリしてたのが、全部違って見える。遺伝子が同じ二人が、知らずに仲良くなってる。関係性の伏線が、日常のじゃれ合いに埋めてある。
星の砂もそう。くるみ、遙、いづみが1粒ずつ拾った3粒を、いづみが小瓶に入れて誠に渡す。三姉妹の象徴。遙のルートでは、本土の病院で眠っている遙のそばで、いづみが「遙は私の妹なのよ……。血のつながりとか、クローンとか関係ない……」と言う。額に傷をつけた姉が、その傷の持ち主を妹と呼ぶ。ここは本当に、画面の前で固まった。
でも、だからこそ言いたい。くるみのルートでは、いづみとの和解が描かれない。立ち聞きで「お姉ちゃんの妹じゃ……ないの?」と飛び出したくるみは、誠を信じて結ばれる。それはいい。最高。でも、お姉ちゃんとは? 血のつながりの証明もないまま、いづみと向き合う場面がないまま、明るく終わってしまう。あれだけ「お姉ちゃん」と呼んでた子なんだから、最後にいづみとの場面が一つほしかった。エンディングの満足度を6にしたのは、ここが一番大きい。
沙紀と遙もいい。沙紀が遙を「クローン」と呼んで刺し続けたのは、6歳のころ別荘の裏の炭焼き小屋にいたクローンの女の子と、遙を取り違えていたから。沙紀のルートで年齢と傷の理由が合わないと分かって、二人は和解する。ずっと喧嘩してた二人の対立に、ちゃんと理由があって、ちゃんとほどける。こういうのが見たかった。
誠については7。軽口の人が、いざとなると誰かのために走り出す。そこは一貫してる。ただ、ルートごとに相手の子に合わせて言うことがきれいに変わるので、誠自身の好みや弱さがもう少し見えてもよかったかな。どの子に対してもちょうどいい言葉を言えちゃう主人公なんですよ。
7.5——推しがぶれない。それだけで、この島は特別
くるみが「20歳」と言った夜も、全員を嫌いと叫んだ朝も、くるみはくるみだった。
折り紙と紙飛行機が好きな子が、自分の紙飛行機で誠を信じる。守ってほしいと言った遙が、守る側に回る。優夏の告白は、視点を変えても一字も変わらない。ヒロインがルートをまたいでも別人にならない作品は、それだけで信用できる。いづみとくるみの姉妹の場面がもう一つあれば、と思うので、そこを引いて7.5。わたしはたぶん、くるみ17号の折り方をずっと知りたいまま生きていく。
