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加藤萌絵のレビュー — 終末の過ごし方(ネタバレあり)

加藤萌絵
加藤萌絵
推しの最期に立ち会う女
7.6/10
7.6 / 10

いろは、「全員眼鏡っ子」をナメてたわたしの完敗。あなたが本命だった。

ネタバレなし版で 言えなかったこと、ここで全部。屋上の鍵を空に投げ捨てた大村いろはが、なぜ「世界に2人しかいないみたい」と笑えたのか。電池切れのペースメーカーを交換しないという選択がキャラとして一貫していたか。香織の中出し回避がなぜ「ヤマアラシのジレンマ」の再演になっていたか。重久=松原先生という土曜の真相が千絵子のキャラをどう照らしたか。固定カップル2組が脇役なのに本ルートより刺さる理由。そしてHシーン全部が、それぞれのキャラを崩さずに「そのキャラの到達点」になっていたか。判定基準はひとつ、解釈一致かどうか。結論を先に言うと、いろはが文句なしの解釈一致で、香織にだけ引っかかる箇所があった。だから7.6。

スコア詳細

ヒロインの魅力 8.5
キャラ間の関係性 8.0
キャラの一貫性 8.0
感動・カタルシス 7.5
主人公の造形 7.0
ボリュームと密度 6.5

滅亡まであと1週間で、わたしは6人の女の子を見ていた

「全員眼鏡っ子」という設定だけ聞いて、ぶっちゃけちょっとナメてプレイし始めたんですよ。

アボガドパワーズが1999年に出した18禁ノベル。人類滅亡まで残り1週間という世界で、主人公の耕野知裕くんが私立緑山高校で6人の女の子と最後の日々を過ごす。月曜から土曜までの6日間しかない。攻略ヒロインは元カノの宮森香織、天文部の大村いろは、後輩の稲穂歌奈、幼なじみの敷島緑。この4人から金曜に1人を選ぶ。それと、選べないけど固定で進む保健医の大塚留希+助手の竹岡多弘、陸上の瑞沢千絵子+謎の年上・松原重久のカップルがいる。

わたしは終末ものとか雰囲気ゲーって、キャラが「状況の飾り」になりがちで身構えるタイプなんです。世界が滅ぶっていう大きい絵があると、キャラはその前でポーズを取らされてるだけのことが多い。属性で記号化されたキャラが終末の前で泣いてるだけなら即閉じる。

で、結論。ナメてたわたしが悪かった。このゲーム、終末を「キャラの内面を引きずり出す圧」として使ってる。とくに大村いろは。あの子のために、わたしはこのゲームを覚えておく。

いろはの「電池を交換しない」が、全部解釈一致だった

大村いろは。このゲームで一番好きになったキャラ。これは先に。

いろはは天文部の幽霊部員で、洞機能不全症候群っていう心臓の病気を持ってる。小6でペースメーカーを埋め込んでる。2年前に携帯の電磁波で機械が動作不良を起こして1年留年してて、表向き2年だけど本当は3年。で、ここが核心なんですけど、防磁タイプの新型ペースメーカーへの交換を、いろはは拒否してる。今のは電池切れ間近。つまり、終末に合わせて自分の心臓も止まることを、この子は選んでる。

「理由や原因って、重要なモノじゃないの」

火曜の屋上で、月の起源説を語ったあといろはが知裕に言う台詞。「理由や原因って、重要なモノじゃないの。知ってたって、月の輝きは変わらない。でしょ?」。最初に読んだとき、わたしはこれを「達観した病弱美少女のポエム」だと思ったんです。属性のための台詞だと。でも違った。金曜の屋上まで行くと、この台詞がいろはの行動原理そのものだったことがわかる。

金曜、いろはは屋上の鍵を空に投げ捨てて「世界に…2人しかいないみたいでしょ」と知裕を誘う。心臓の傷痕を見せて、病気も留年の経緯も全部打ち明けた上で、「止まっても…それはただの結果。大事なのは…私が、誰と、何をしたのか…でしょ?」と言う。これですよ。火曜の「理由は重要じゃない」が、ここで「結果は重要じゃない」に裏返る。死ぬ理由も、心臓が止まる結果も、この子にとってはどうでもいい。重要なのは過程だけ。火曜に置いた台詞が金曜で回収される。属性じゃなくて、行動原理として一貫してる。

しかも事後、いろはは知裕の頭を膝に抱いて「私が…君を守ってあげる。この残酷な世界の全てから、君の事を守るの」「わたしがこの世界でする――最期の約束」と言う。守られる側だった病弱な女の子が、終末の前で守る側に立場を逆転させる。「みんな、最後に死んじゃえば一緒なのに」って諦めてた子が、「最期の約束」を能動的にする側になる。この転換が、ちゃんとこの子の中で繋がってるんです。諦めてたんじゃなくて、感情を抑え込んでた子だったってことが、ここで全部開く。解釈一致。これ以上ないくらい解釈一致。尊死。

土曜の「もし、世界が終わらなかったら/一緒にラーメン食べにいかん?」も完璧。「最期の約束」をした子が、その口で「もし終わらなかったら」って未来の話をする。矛盾してるように見えて矛盾してない。過程が大事だと言った子だから、終わるか終わらないかじゃなく「一緒にラーメン食べたい」という今の気持ちだけが本物なんです。ライターがいろはをわかってる。

香織だけ引っかかった。緑と歌奈は迷いなく良い

4人を順番にキャラとして検証する番。

敷島緑 ── 解釈一致

幼なじみの緑ちゃんは、知裕を「ちひろ」と呼び捨てにして「ばーか」を連発する愛想の悪い猫みたいな子。でもこの子の本体は、図書室で語る「敷島流進化論」のほうにある。「ヒトがヒトである為に必要だった唯一の物が文字なんだからね」って熱弁する読書家。この理屈っぽさと、知裕への素直になれなさが、金曜の図書室で全部ひっくり返るのが良い。「私は…ちひろの眼鏡姿、好きだったけどね」「このメガネに憧れて…私、暗いトコロでばかり本を読んでた位だし」「本じゃなくてちひろが目当てだったんだよ」。本好きの理由が、ぜんぶ知裕に繋がってたっていう種明かし。理屈っぽい子が、最後に一番ベタな幼なじみの恋を白状する。このギャップがこの子の可愛さで、ちゃんとそこまで積み上げてる。「2日間だけ…ちひろを頂戴…」もいい。期限を切るのが緑らしい。素直になれない子なりの、精一杯の素直。解釈一致です。

稲穂歌奈 ── 解釈一致

1年の歌奈ちゃんは体当たり挨拶が定番の元気少女で、知裕に対して頭突きで0勝3敗中。最初は完全にギャグ要員に見える。でもこの子、金曜の屋上で本性が出る。「歌奈の好きな公園もケーキ屋さんも…全部、なくなっちゃうんだ」って泣く。自分が死ぬことより、好きなものが全部消えることのほうが怖いって言う。元気な子の元気さの裏に、ちゃんと喪失への恐怖が置いてある。しかも事後、歌奈は裸で知裕にタックルして「センパイ/…大好きですー!!」と言う。体当たり挨拶が、ここで愛情表現として昇華される。ギャグの伏線が感情で回収される。「いつか…綺麗って言われてみたいです…」っていう年齢相応の願望もちゃんと拾ってる。この子も崩れてない。

宮森香織 ── ここだけ引っかかる

メインヒロインの香織。元カノで、中2のとき知裕と自然消滅してる。「マジメというレッテルに縛られてきた」「ここにしか居場所がなかった」っていう、いい子を演じ続けてきた子。木曜の「弟が生まれて…父が私に後継ぎの事を話さなくなって…たぶん気を惹こうとしてたの」っていう告白まではすごく丁寧で、キャラとして筋が通ってる。ここまでは文句ない。

引っかかるのは金曜のHシーンの「中出し回避」のくだり。知裕が「彼女の中で果てる事は、理性がじゃまして」外に出すんですけど、これが香織の「ホントはちょっと、なかに…欲しかったんだけど…」と擦れ違う。これ、理屈としては「ヤマアラシのジレンマ」の再演になってるんですよ。お互いを気遣って傷つけ合うっていうこの2人のテーマを、行為にまで持ち込んでる。言いたいことはわかる。わかるんだけど──キャラとして見たとき、ここの知裕の「理性」がいろは・緑・歌奈ルートの知裕と微妙に温度が違うんです。他の3人には素直に向き合ってる知裕が、香織にだけ「理性がじゃまして」躊躇する。元カノだから、という説明はつく。つくけど、わたしの中では香織が一番「テーマを背負わされてる」感じがして、いろはほど自由に動いてない。だから香織だけ、ほんの少しだけ解釈に距離があった。土曜の宮森家前を疾走して「週末さぁ…空いてる?」と公開告白するクライマックスは熱いんですけど、その熱さは知裕側のもので、香織側はずっと受け身なんですよね。メインなのに一番動かされてる側。そこがわたしには少し引っかかった。

固定カップル2組のほうが、本ルートより深いまである

選べないのに、重久×千絵子と留希×多弘がめちゃくちゃ良い。これ褒め言葉。

重久と千絵子 ── オッサン×陸上少女が解釈一致

松原重久は、グラウンド脇の木の下で毎日パンを食べてる気だるい年上の男。「いつも心に太陽を、いつも胃腸に小麦粉を」とか「努力・勝利・パン」とか、ふざけた標語ばかり言う。でもこの人、火曜に知裕へ「人間は自分の中に穴を掘るんだ。深すぎて誰も降りてこられないくらい深い穴を掘り、自分で出られなくなる」っていう鋭い終末観を語る。兄が14歳の少女と無理心中したっていう重い過去も背負ってる。ふざけた標語と鋭い洞察が同じ人間の中に同居してる。これが重久のキャラの軸。

で、千絵子。陸上特待生で「私には、陸上しかないの」と自分を縛ってる子。姉へのコンプレックスで「全てに期待しない」甲羅を持ってる。この子に重久が「お前、何から逃げてる? 無心に走る事で…考える事から逃げてる」と直球を投げる。重久の「穴を掘る」哲学が、千絵子の「走ることで逃げてる」に重なる。木曜の部室での初体験は、この哲学が千絵子の中で実体化した瞬間なんです。逃げてた子が、初めて誰かに掴まれる。

そして土曜の真相。千絵子が髪を切ってトレードマークの髪しばりを外して現れる。回想で、重久が3年前の中学陸上部顧問「松原先生」だったことが明かされる。千絵子を緑山高校に進学させた恩人。なのに千絵子は最後まで「私…あなたの名字も知らないんだけど…」と言う。恩人だと気づいてないまま、もう一度この人を好きになってる。これがすごい。理由を知る前に好きになってた。重久の「わかっている事はわかってない事と変わらない」が、ここで効いてくる。そして千絵子は「私、あなたの事が好きだよ――でも、走る事が止められない…」と告げて、重久は「諦めにも似た理解の笑み」で「いつもの木の下、な」と受け入れる。好きだけど走るのをやめない、という分裂を、重久がそのまま許す。誰も矯正しない。これ、終末だからこそ成立する関係の描き方で、めちゃくちゃ解釈一致でした。

留希と多弘 ── 唯一、結ばれないカップル

保健医の留希さんは咥え煙草で「コロスョ?」が口癖の、軽口とブラックジョークの大人の女。7年付き合った医師の元彼が2ヶ月前に院長娘と婚約して、終末発表後にその病院から医薬品をブン捕ってきた人。助手の多弘くんは開業医の息子で、母を強迫性障害のノイローゼ自殺で失ってる。父への反抗で医者を目指した子。「少年」と呼ばれて反発する。

水曜、留希の元彼話を聞いた直後に多弘が衝動的に抱きしめて、保健室で結ばれる。ここの感情の流れは丁寧。でもこのカップルだけ、最後に結ばれないんです。土曜、多弘は「センセーの事、真剣に好きです」と告白して、留希も「その告白、のった」と受ける。なのに多弘は「死ぬ前に親父ときっちり対決しておこうと思って」と、家族のほうを選んで保健室を去る。「最期くらい“少年”はヤメませんかセンセー。オレ、オトコになるために親父と対決するんですよ」。留希は「希望」という言葉だけ残す。

これね、解釈一致なんだけど、ちょっと苦しい解釈一致。多弘が逃げてばかりの自分に決着をつけるために父と対決する、っていうのは多弘のキャラとして筋が通ってる。終末でも逃げない、っていう成長の話。でも留希を選ばずに去るのは、恋愛としては結ばれない。終末ものなのに、最後の最後で恋より家族を取るカップルを1組混ぜてくる。ここの匙加減がこのゲームの誠実さで、全カップルをハッピーにしてないんです。だからこそ留希の「全く希望が無いわけじゃ…ないんだから」が効く。キャラを甘やかさない。多弘というキャラを大事にした上で、あえて結ばせない。わかってる。

Hシーンが、全部そのキャラの「到達点」になってる

わたしにとってHシーンは、積み上げた関係の集大成かどうかが全て。実用性の話はしない。

このゲームのHシーンは、全部キャラの感情の帰結として置かれてる。とくにいろは。屋上のフェンス前で、心臓の傷痕にまず舌を這わせるところから始まる。「傷なんか、関係ない…」って知裕が言う。病気を抱えた子の身体を、負担をかけないように工夫しながら抱く描写が独特で、最後に知裕が「頬に感じる彼女の柔らかな胸、華奢な膝。トクリ、トクリという彼女の心臓の音。嗚呼、動いている」と確かめる。心臓が動いてることを確認しながら抱くHシーンって、このキャラにしか成立しない。傷痕も心臓も病歴も、ぜんぶこの子の本体だから、それを含めて抱くことが「いろはを抱く」ことになってる。本編との整合性が完璧。これがH評価の核心です。

緑のシーンも良い。階下にお母さんがいる敷島家で、「妹のように思っていた緑」を「女」として認識する転換が、行為そのものに乗ってる。緑が「ちひろ…私のために我慢しないで。私…ちひろが…欲しいんだよ…」と能動的になるのが、図書室の素直になれない子からの落差で効く。歌奈のシーンは、体当たり挨拶が裸タックルに昇華される構造がもう完璧で、ギャグキャラの感情の出口としてHシーンが機能してる。

香織のシーンだけ、さっき言った中出し回避の擦れ違いがある。これも理屈としてはテーマの再演になってるんだけど、Hシーンとしてキャラの感情が完全に解放されきってない感じがあって、いろはほどの一致感はなかった。とはいえ日常で優しかった知裕がベッドで急に別人になる、みたいな破綻はどのシーンにも一切ない。日常の知裕とHシーンの知裕がちゃんと同じ人間。そこは全シーン信頼できる。

固定カップルの留希×多弘、重久×千絵子のHシーンも、それぞれのキャラの感情の流れにちゃんと接続してる。重久が「瑞沢、すごいよ…オレたちのいやらしいところがまる見えだよ…」と煽るのも、千絵子が「ね……お願い。キス…して…」と甘えるのも、両方ともそのキャラだから言う台詞になってる。火曜の校内徘徊で見る覗きシーン2つ(F組のカップルと玲子×有里のレズ)は、終末下でみんなが自分の嗜好を隠さなくなったっていう世界の説明として置かれてて、これは攻略ヒロインとは別枠。キャラの集大成じゃなくて、世界の歪みを見せるための装置です。わたしの評価対象は本ルートのほう。

知裕くんが「受け身」なのと、短すぎるのが減点

褒めてばかりもいられない。引っかかったところもちゃんと。

主人公の知裕くん。観察と内省の人で、火曜の頬杖シーンで「判定する行為こそが無為に他ならない」みたいな独自の終末観を組み立てる。ここのモノローグは良い。地の文の知裕は確かにキャラとして立ってる。ただ、ヒロインに対しての動き方が基本的に受け身なんですよ。香織も緑もいろはも歌奈も、最後は女の子のほうから踏み込んでくる。「2日間だけちひろを頂戴」も「私と歩いてくれる?」も「みんな無くなっちゃう」も、全部ヒロイン発信。知裕はそれを受け止める側。

香織ルートの土曜だけ、知裕が靭帯損傷の足で町内を疾走して「週末さぁ…空いてる?」と能動的に動く。ここは熱い。でも逆に言うと、知裕が自分から動くのが最後のここ一発だけなんです。わたしは主人公がヒロインを好きになる「理由」と「動き」が見える作品が好きなので、知裕の受け身さは点数を引く。無個性ではない。内面はちゃんとある。でも、好きになる過程を主人公の側から見せてくれる量が少ない。だから主人公の造形は7.0に留まる。

もうひとつはボリューム。4ルート全部回っても3時間くらいで終わる。短い。いろはがあれだけ立ってるのに、いろはと過ごす時間が圧倒的に足りないんですよ。月曜から土曜までの6日間しかないっていう構造上しょうがないのはわかる。日常パートの密度が薄いと、キャラの細かい仕草を積む時間が取れない。香織の「マジメ」の掘り下げはあるのに、千絵子の姉コンプレックスとかはもっと見たかった。キャラが良いだけに、もっとこの子たちと一緒にいたかった。この物足りなさで、ボリュームと密度は6.5。

7.6——いろはに会えただけで、やった価値があった

このゲームを覚えておく理由は、ひとつでいい。

大村いろは。電池の切れかけたペースメーカーを交換せず、終末に自分を合わせて、それでも「過程が大事」と笑って、最後に「君を守ってあげる」と立場を逆転させた女の子。火曜の「理由は重要じゃない」から金曜の「結果は重要じゃない」まで、この子の行動原理は一度も崩れなかった。属性としての「病弱美少女」じゃなくて、「大村いろは」という一貫したひとりの人間として、終末の前に立っていた。ライターがこの子をわかってる。それだけでわたしには十分です。

緑も歌奈も解釈一致で、固定カップル2組も終末でしか成立しない関係をちゃんと描いてた。減点は香織がメインなのに一番受け身だったこと、知裕の動きが終盤まで控えめなこと、そして全部が短すぎてキャラと過ごす時間が足りなかったこと。だから7.6。満点には届かない。届かないけど、いろはというキャラに会えたという一点で、わたしの中で長く残るゲームになった。電池、交換しなくてよかったね、いろは。あなたがあなたのまま終われたなら、それでいい。