ネタバレゾーン — 未プレイの方はご注意ください ← ネタバレなしページに戻る

本多チエのレビュー(ネタバレあり) — てんたま -1st Sunny Side-

本多チエ
本多チエ
おもろいかどうか、それだけ
7.2/10
7.2 / 10

花梨がいてくれてよかった。あの子がいなかったら序盤で止めてたと思う。

KIDの全年齢恋愛ADV。花梨のコメディで序盤を引っ張って、中盤から感動系にシフトしていく作品。うちの評価軸(コメディ・テンポ・キャラ)で見ると序盤の出来が特に良く、グッドエンドの着地も合格点。テンポが中盤で落ちるのと主人公の受け身っぷりが気になったけど、花梨というキャラが作品全体を支えきってた。「笑わせといて泣かせんのは反則やで——でも、まあ、そういうことができてる作品やった」というのが正直な評価。

スコア詳細

コメディ・日常 8
ヒロインの魅力 9
序盤の掴み 8
キャラ間の関係性 8
テンポ・緩急 5
主人公の立ち位置 5

ベタすぎて、逆に気になった

天使が「幸せにするですの」って言いながら押しかけてくる話。

KIDが2001年にPS1で出した全年齢の恋愛ADV。うちがプレイしたのはWindows版(2002年)や。見習い天使の花梨が卒業試験として主人公・椎名の家に居候する。椎名は前の年に恋人の双葉を病気で亡くしていて、その喪失を引きずりながら生活している。そこへ花梨がやってきて、12月25日までに「椎名を幸せにする」という試験をこなそうとする——でも一緒にいるうちに花梨自身が椎名を好きになっていく。

うちはコメディ・テンポ重視のレビュワーで、感動系の作品のシリアスパートはあまり得意やない。この作品は「コメディで掴んで感動で着地させる」構成やったので、前半は強く評価できて後半は少し評価語彙が不足してる——という偏った見方になることを先に断っておく。

序盤の花梨がおもろい——これは本物

冒頭の買い物シーンで「あ、このキャラは本物やな」と思った。

スーパーで大量に食材を買い込む花梨。「全部おいしそうなのでいっぱい買うですの!」と言い張って椎名が止めきれない。その後、荷物を二人で抱えて帰る。こういう「キャラが天然に動いてて、相手がその天然さに振り回される」シーンがテンポよく書かれてると、読んでいて心地よい。序盤はこのリズムが続く。

花梨のコメディが機能してるのは「天使なのに人間の生活に馴染もうとしている」という設定のギャップが一本筋で通ってるからやと思う。「ですの」語尾は記号として浮いてるだけやと弱いけど、その語尾のキャラが本気でポトフを作って「食べないと元気が出ないですの」と椎名に持ってくる——この行動と語尾が一致してる分、キャラとして立ってる。

千夏と貴史の絡みもよかった。千夏のツンデレ気質と花梨の天然さが対になって、掛け合いとして機能してる。貴史の「いい加減なやつ」ポジションが日常シーンのクッションになってて、三人が揃うシーンのテンポが気持ちいい。序盤でこれが揃ってたのは評価が高い。

花梨が出ていく——笑わせといて泣かせんのは反則

コメディの作品で泣くのは癪なんやけど、ここだけは正直な話。

中盤から後半にかけて、花梨が自分の気持ちを持て余して椎名の家を出ていく展開になる。「花梨は椎名が好きです。でもご法度です。だから出ていくですの」という二律背反。序盤の天然ぶりとの落差が大きい分、このシーンで花梨が重くなる。

うちが「あ、やられたな」と思ったのは花梨が出ていく前夜のシーン。それまでずっとコメディ寄りのキャラやった花梨が、荷物をまとめながらふと「椎名に優しくしてもらえたのが、幸せだったですの」とつぶやく。笑いで積み上げてきたキャラがここで感情を持ってて、それが急に来るから効く。笑わせといて泣かせんのは反則やで——でも、まあ、やられた。

コメディを真剣に評価するうちが言える「笑いを使った感動の作り方として正しいやり方をしてる」という話。日常シーンのコメディが積み重なってた分、花梨の感情が着地した時の重さが出た。これは設計として機能してる。

双葉という存在——うちには少し重かった

このシーンだけは、うちの評価軸の外に出てた。

椎名の夢の中に双葉が出てきて「じゃ、答えは出てるじゃない」と言う場面がある。椎名が「花梨が好きだが天使だから無理だ」と迷ってる夢の中で、双葉が背中を押す。「天使だろうが人間だろうが花梨ちゃんは花梨ちゃん。そうでしょ?」という言い方。

うちはこういうシーン——亡くなったキャラが夢に出てきて背中を押す系——の評価語彙をあまり持ってない。ただ、「笑えなかったけど、それはそれとして重かった」とは言える。双葉のキャラが作中ずっと椎名の背景にいる存在として機能してて、その集大成としてここで出てくる。コメディとは関係ない話やけど、作品として一本筋が通ってた部分。

「いっぱいいっぱいいーーーーーっぱい」——これはおもろい着地

グッドエンドの花梨の台詞、うちはここが一番好きやった。

花梨グッドエンドのクライマックス。椎名と花梨が互いに気持ちを打ち明けて、天使界の校長先生が「花梨君、お幸せに」と言う。そこで花梨が「いっぱいいっぱいいーーーーーっぱい、幸せになるですの」と叫ぶ。

これはおもろい。感動シーンのはずやのに「いーーーーーっぱい」の伸ばし方が花梨の語尾と癖の集大成になってて、笑えるし泣けるし、これだけキャラが立ってたら当然こうなるよな、という納得感がある。序盤から積み上げてきた花梨のキャラの最後の一点として機能してる。「ですの」語尾で始まって「いっぱいいっぱい」で終わる——キャラとして一本通ってた。

各ルートについて

花梨ルート以外はコメディの密度が下がるので正直評価しにくい。

千夏ルート——千夏のキャラが好きなので読んだ。貴史への片思いを諦めて椎名に向き直る展開で、千夏の気持ちの整理の仕方は人間らしくて悪くなかった。ただ花梨の出番が減るので、うちの評価軸では少し点数が落ちる。

貴史ルート(千夏×貴史ED)——これはおもろかった。椎名が千夏と貴史をくっつけようとする「マッチメイカー」みたいな役割になる展開で、ラブコメとして読むと一番テンポよく読めた。千夏と貴史のすれ違いとくっつき方のギャグが機能してて、うちの評価基準で言うと実はこのルートが一番笑えた。

結花ルート——うちには少し重たかった。結花の二重人格「香乃」の扱いがシリアス寄りで、コメディの文脈がなかった。話としては完結してるけどうちの評価軸の外。

理香子ルート——神社の巫女の後輩理香子という設定はおもろそうやったけど、展開が感動系に寄りすぎてて笑えるシーンが少なかった。設定の独自性はあったのにもう一歩やった。

7.2——花梨が全部持ってった

コメディで始まってコメディで笑わせて、最後に感動で落とす。そういう作り方ができてた。

花梨グッドエンドで言えば、「笑わせながら泣かせる」を最後まで手放さなかった。「いっぱいいっぱいいーーーーーっぱい」という台詞がその証拠で、泣かせるシーンの直前まで花梨は花梨のままやった。これは好きな着地やった。

テンポの問題と主人公の受け身っぷりは最後まで気になったけど、花梨というキャラがいる限り読み続けられる作品やった。うちが言える評価はそれだけ——あとは他のレビュワーに任せる。